企 業           


 ちょっと趣向を変えて、コーチングやファシリテーションをうまく活用して業績向上につなげている企業の実例を研究
 してみました。 第一弾は、スターバックスジャパン。 もちろん知っていますよね。


  Seach01 スターバックス研究
  Seach02 続、スターバックス研究


Seach01 

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 ■ スターバックス研究 

  スターバックスコーヒー。 もちろん知っていますよね。
  では、スターバックスには接客マニュアルがないって知っていましたか?

  当然、店舗毎にお客様への挨拶の仕方も違うようです。
  あれだけ急激に店舗数を増やしているだけに教育体制が不十分?
  いいえ違います。

  最高のコーヒーを通じ、顧客が心から満足する最高のサービスを提供するため、社員が自ら考え行動できるように、
  マニュアルを極力廃しているのだそうです。

  えっ。自分で考えて行動する。
  何やらコーチングの匂いがしますね。実際、コーチングを導入しているようですが、
  本当の秘密は、「一人ひとりのお客様に一杯ずつ心を込めてコーヒーをお出ししよう。」という社内哲学やその元になる
  ミッションステーツメントにあるようです。


              




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■ スタバではやりがいが最高のサービスを生む


  スターバックスが提供しようとしているのは、日頃の日常からほんのちょっとだけ離れた贅沢。

  ちょっとおしゃれな空間でかなり美味しいコーヒーを飲む。大事なのはコーヒーそのものではなく、コーヒーとと
  もにある時間、空間。そして香り。彼らはそんなコンセプトを実現するのに、どう挨拶して、どう注文を聞くという
  ような、お客様への対応マニュアルが障害となると考えたようです。

  彼らがそう考えた根拠は何か?
  やりがいを持てない社員には最高のサービスを提供できない。もっと言えば、日々変わりゆくお客様の好みや
  望みに対応していく柔軟性や、自分で判断して行動するという自律性を持てないと考えているようです。

  彼らはこの考え方で競争を優位に戦い、店舗を増やし続けています。
  彼らがどう自律性を育て、維持していったか。 興味が沸きませんか?




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■ スタバはジーコ型の自律組織

  スターバックスのミッションステートメントは以下の通り。(HPより)

   「スターバックス ミッション宣言」

   スターバックスの使命は、
   会社として成長しながらも主義・信条において妥協せず、世界最高級のコーヒーを供給すること
   である。


   @ お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる
   A 事業運営上での不可欠な要素として多様性を受け入れる
   B コーヒーの調達や焙煎、新鮮なコーヒーの販売において、常に最高級のレベルを目指す
   C 顧客が心から満足するサービスを常に提供する
   D 地域社会や環境保護に積極的に貢献する
   E 将来の繁栄には利益性が不可欠であることを認識する



  コーヒーの味やお客様満足は当り前ですが、興味が沸くのは、@とA。

  @では、社員同士の信頼関係や職場環境を重視するとともに、その言葉の裏には、上の者が下の者に考え
  を押し付けないという考えが明確に示されています。

  Aの多様性という言葉の中にも事業の多様性ということのみならず、従業員の能力・才能、そして考え方の
  多様性を受け入れることを示しているようです。

  サッカーでいうなら、トルシエ型ではなくジーコ型。自律性が高まりそうです。
  このミッションステートメントは社員証の裏に書かれ、日々目に入るようになっているようです。




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■ スタバではランクの力が排除される

  
スターバックスの創設者ハワードシュルツは、どんな問題でも議論できる雰囲気が自社内にあると発言しています。
  まさにジーコジャパン。

  一般に企業内の会議体では、どんなに活発な議論をしようとしても、結果として地位や立場が結論を導く議論、一応相
  手の意見は聞いたよというセレモニー的な議論が大勢を占めます。 下手をすると単なるガス抜き。
  具体的行動にはつながりにくいのです。

  理由は明確。より地位の高い者が決定権を持つという価値観(ランクの力)が企業には蔓延しているからです。

  ランクが上の方はどうしてもランクが下の方に鈍感になります。ランクの力は、相手が納得し、賛同してくれたかのよう
  な錯覚を与えるのです。これこそ、社員の自律神経を麻痺させ、成長を奪う最大要因と私は見ています。

  大事なのは、地位の高い方々が、自分より地位の低い方々の意見に耳を貸し、自分とは全く違う価値観や考え方の
  存在を認めることです。
  どんな問題でも議論できる社風が彼らスタバにあるなら、ファシリテーションの匂いが強くしますね。

  相手の意見をしっかり聴くためのコーチング。プロジェクトや会議における意見や発言を交通整理し、きちんと話させ、
  きちんと聴かせるファシリテーション。その両方がうまく機能しているのかも知れません。




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■ スタバには、双方向のコミュニケーションと気づきがある

  マニュアルがほとんどないスターバックスでも、コーヒーの入れ方や接客サービスの最低限の基本を新入社員教育で
  学びます。しかしその前に初歩教育エクスペリエンスがあるそうです。

  エクスペリエンスでは、自分の過去の感動体験を思い出してカードに書きます。
  カードに基づき、参加者が意見交換・ディスカッションを行い、

   ・ 何が自分を感動させたのか?
   ・ お客様の感動とは一体何なのか?
   ・ その状態を実現するには何があればいいのか?
   ・ 具体的には何をすればよいのか?      と具体的に問いかけられて、具体的なイメージを各々が作ります。

  正解は無く、問いかけによる気づき、自分自身で考えることが重視されます。
  あるべき姿は、アルバイトも含め、社員一人一人が自分で考えるのです。

  何故、何故、何故と考えるのは決してコーチングだけではなく、 QC手法をはじめ問題掘り下げのための手法として頻
  繁に使われますが、スターバックスにおいては、相手の考えや意見をしっかり聴くこと、助け合うことも社員が身に付け
  るべきスキルとして定められています。

  言わば、双方向の関係・双方向のコミュニケーション。
  スターバックスでは社員のことをパートナーと呼んでいるようです。




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■ スタバでは社員にレッテルを貼らない


  ミッション宣言の一つめを思い出して下さい。  「お互いに尊敬と威厳をもって接し、働きやすい環境をつくる」
    ・・・・ そう、相手を出来ない人間と決め付けることは、この宣言に反します。

  あいつに教えたってだめだ、とかあいつは出来ないやつだという決め付け、つまりレッテルを貼ることも、貼られるこ
  とも無いそうです。
  と言っても、無理やり教え込むのではなく、何かを覚えるのも自分自身の意思によります。
  自分で目標を定め、目標達成のために自ら学ぼうとする者に先輩(メンター)の指導とラーニングジャーニーと呼ば
  れる教育プログラムがあります。

  自ら主体的に学習し、自ら試してみる。であれば当然、失敗もあるはずです。
  しかし、失敗は許されるのだそうです。許されると言ってもレベル次第でしょうが、その失敗が試行錯誤の結果であり、
  成長に繋がるなら許されるようです。


  例えば、コーチングスキルの一つにオープンクエスチョンというものがあります。

  失敗した部下に対し 「何やってるんだお前は」と答えようのない言葉をかけるのがクローズドクエスチョン。
  「そんな性格だから何をやってもダメなんだ。」 と人格否定すらしかねません。

  これに対し「何が原因で失敗したんだ?」 と思考を促すのがオープンクエスチョンなのです。
  「よし、一緒に原因を考えよう。」 とか 「対策として何が考えられる?」 というように思考が繋がっていきます。

  恐らく、スターバックスの店舗には、オープンクエスチョンが溢れているのでしょう。




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■ スタバにはファシリテーターがいる


  一般的には、会議やプロジェクトの意見調整を中立的な立場で行い。 参加者の意見を引き出すのがファシリテーシ
  ョンです。 @ 目的の明確化  A 作業内容の確認  B 時間管理  C 明確な結論  D 意思決定への参加意識
  の5点を重視した活動を行います。

  スターバックスのような極めて自律的な組織で重要なのはコンセンサス作りです。

  ある意味、明確なビジョンや価値観が一見多様性のある行動に一つの規則性を与えます。しかしそれにも限りがあり
  ます。そこで活躍するのがファシリテーター。150人以上の社内資格者がスターバックスのDNAを社内に植えつけ
  ることに懸命になっています。

  とは言っても、そこにあるのは強制ではなく、主体的に行動しようとする者に気付きを与えたり、目標をコミットメント
  させたりするのです。

  コミュニケーションスキルとしてコーチングとも非常に似ていますが、ファシリテーションの最大の目的は合意形成、
  納得感です。

  6項目40時間の研修の後、認定試験にパスした者だけがスターバックスのファシリテーターとなりますが、なんとア
  ルバイトにすらその道が開かれていることに最大の特色があります。 そんな会社って聞いたことないですねえ。
  でも、アルバイトと言っても、直接お客様に接するのが接客業でのアルバイト。
  お客様が喜ぶのも、リピータが来るのもアルバイト次第。 人を大事にするっていうのは、お客様を大事にすることに
  直結します。




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■ スタバではコンピテンシー評価がやる気につながる

  私の勤務する会社では、本年より、一般職社員に目標管理制度とコンピテンシー(行動特性)評価を導入しました。
  年次によって求められる行動のレベルを明確にした上で、課題設定を行うことで、成長につなげるのが目的です。
  行き過ぎた成果主義の効果が問題となる昨今、ターゲットはあくまで「成長」なのです。

  しかししかし、スターバックスではそんなことは、とっくにやっていたのです。 しかも結構前から。
  これには私も驚きました。

  入社何年目ということではなく、グリーンビーン、イエロービーン、シナモンロースト、フルシティロースト といったコーヒー豆になぞらえ
  た6段階の成長レベル毎に求められる行動特性が定められています。

  例えば、行動特性 「顧客サービス」 の フルシティローストなら、
  「直接エンドユーザーと接することが無くても、チームの運営により顧客を満足させることが出来る」となります。
   ・・・・ 成長のターゲットが極めて明確ですよね。

  評価のウエイトは、目標管理が50%、コンピテンシーが50%。
  でも例えばお客様の満足をどうやって測るのか? もちろん上司の評価もあるのでしょう。
  ・・・ でも 実は、その方法の一つにスナップショットと呼ばれる覆面調査があります。 味や接客はもちろん、友達に
     紹介したくなる店だったかどうかまで100項目近いチェックがあるそうです。

  ここで思い出してください。スターバックスには接客マニュアルが無いのです。正解やルールは無いのです。
  ハードルが高そうですね。
  どういう行動をしてお客様を満足させるのか、それは各人の力の発揮どころです。
  きっと社員は、やるっきゃないと燃えています。




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  たかがコーヒー。されどコーヒー。
  もちろん、スターバックスが好きな方がいれば、嫌いな方もいます。でもライバルの多いこの業界で、店舗数を急激
  に増やしているのは事実。
  秘密はその哲学と、やりがいを持ってそれを実践する社員にあることがお分かりいただけましたでしょうか?

  別にスターバックスのまねをしましょうと言っているのではありません。
  部下や後輩に自分で考えさせることの良さや、 対等の人間として尊厳を持って接することが効果を上げている例を
  ご紹介したかったのです。

  私は、幾つかの参考文献やスターバックスのHPでこの内容を調べているうちに、自分の部下や後輩が、楽しくかつ
  真剣に働きながら成果を上げている姿をイメージしてしまいました。





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 ■ 続スターバックス研究


  再びスターバックス研究。前編ではスターバックスの人材育成について研究しましたが、今回は経営全般について
  の研究です。



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 ■ スタバ経営哲学の原点

  何故、スタバのCEOハワード・シュルツは社員(パートナー)を大事にする道を選んだのか?

  実はハワード・シュルツはスタバの創業者ではありません。彼は、1982年に店舗数5軒程のシアトル市内のコー
  ヒー会社であるスターバックスに転職し、その後短期間でスターバックスを数万人の社員を抱える一流企業、そし
  て世界的ブランドに引き上げたのです。

  とは言え、彼はスタバを一流ブランドにしようと思ったわけではないようです。

  ハワード・シュルツ(フルネームの方が呼びやすいですね)は、ブルックリンの貧しい家庭に育ったようですが、彼
  の経営哲学の原点は、どうやら父親のブルーカラー労働者としての苦労、貧しい生活による家族の苦労にあった
  ようです。

  雇用主から首を切られ職を転々とする父親の収入は少なく、借金取りからの催促の日々。
  そんな生活の中でハワード・シュルツは誓ったそうです。自分は人を見捨てるようなことはしないと。

  彼が努力家だったのか、運に恵まれていただけなのかまでは調べがついておりませんが、彼が少年時代の自分
  への誓いを実現したことは確かのようです。

  近年の企業にはまれであった考え方、
  社員の仕事への誇り、社員の自尊心を重視し、経営者は社員に対する責任があるのだという思いの原点がおわ
  かりいただけたでしょうか?




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 ■ スタバの創業者たち

  1971年4月。
  ジェラルド・ボールドウィン、ゴードン・バウカー、ゼブ・シーゲルの3人がシアトルのパイクプレースマーケット
  地区にコーヒー豆を販売する店、スターバックスコーヒー、ティーアンドスパイスをオープンした。
  それがスターバックスの最初の1歩でした。

  豆。そうコーヒーを飲ますのではなく、炒ったコーヒー豆を売るのが初期のスタバの形態だったのです。60年代か
  ら70年代のアメリカと言えば缶入り食品やインスタント食品、ケチャップやハンバーガー。
  私のイメージの中でもなんとなく簡単お手軽な雰囲気が漂います。品質や味より大量消費向けのパッケージ商品。
  そんな感じです。

  60年代後半にオハイオ州に医学留学していた叔父夫婦はよく言っていました。アメリカ人は自宅では料理なんて
  しないんだよ。 封を切って皿に並べるんだ。野菜もちぎって並べるだけ。 味も何もあったもんじゃない。

  まずい浅炒りのコーヒー。 それは映画の中のアメリカのイメージとして私がイメージしていたずばりそのものでも
  あります。
  良くは知らなかったのですが、 この時代にアメリカで一般的なのはロブスタ種という比較的品質の劣るコーヒー
  豆でそれを浅く炒って挽いて粉にして、色々ブレンドして缶に詰めたものでした。

  ところで、皆さん自宅でコーヒーを飲みますか。
  
もし、豆や豆を挽いたコーヒーの袋があったら、ちょっと調べてみて下さい。種類についての記述がありませんか?
  えっ、モカ、キリマン、そうそう豆の銘柄がありますねえ。
  コナコーヒー。ああそれハワイのやつ、私も好きなんです。
じゃなくて、アラビカ種なんて書いてある袋がありませ
  んか?

  スタバがシアトルで扱ったのは、アラビカ種を深炒りしたコーヒー豆なんです。アラビカ種を深炒りして飲むのは、
  どちらかと言うとヨーロッパ文化。

  スタバの3人の創業者はシアトルに持ち込んだのは、単なるコーヒー豆ではなく深炒のコーヒーをじっくり味わう
  という新しい文化だったのです。

  店名に白鯨に登場する船乗りの名前スターバックをモジり、人魚をトレードマークとしたこの3人の創業者は、現
  在の経営者であり、スタバを急成長させる原動力となったハワード・シュルツとは違い、ビジネスマンというよりは
  文化人。 作家であったり、 英語(つまり国語)教師であったり、 歴史の教師であったりです。

  3人は事業の拡大ではなく、品質のよく美味しい深炒りコーヒーの文化を啓蒙することに力を注いだようです。
  それが時代にマッチしたようです。

  脱線しますが、私がスターバックスの店名から最初にイメージしたのはアクション小説家クライブカッスラーの作
  品 「スターバック号を奪回せよ」でした。この小説でのスターバック号は原子力潜水艦。
  もしかしたら、クライブカッスラーも白鯨をモジったのかも知れませんね。

  次回はスタバの急成長について調べてみます。




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 ■ スタバのドピオ

  ところで、スタバに行くといつも、もう少し分かりやすい言葉で注文を復唱して欲しいなと思うのですが、皆さんどう
  でしょう?

  実は先日、スタバでエスプレッソマキアートを注文したところ、
  お姉さんに 「量が少ないですけどいいですか?シングルもしくは、ダブルがありますが?」 と何度も聞き返されま
  した。 (この気遣いは嬉しいのですが。)
  その後バリスタと思われるお兄さんに「ドピオ出来ました。」と言われ、同僚と2人で頭を傾げました。

  「おいドピオって言ってるぞ。」 私が言うと、
  「でも我々しか待ってないからいいんじゃないですか、どっちみちスタバって日本語通じないですから。」 と同僚
  が応じました。
  ・・・・・ メニューにエスプレッソと書いてあるじゃないか、ドピオって何なの。ってな感じです。ふう。

  うーん。 ドピオってダブルのことですよね。
  でも、ハワード・シュルツの自伝には、一旦スタバを退社した彼が、旧経営陣からスタバを買収した時にデミタス
  カップにエスプレッソと泡ミルクを淹れたドピオマキアートをイル・ジョルナーレ (彼が立ち上げたコーヒー店) に
  戻って飲んだと書いてありました。

  シングル (ソロ) か ダブル (ドピオ) かと言うよりは、このエスプレッソの飲み方が ドピオなんだというような記述
  です。 ハワード・シュルツがシアトルで新たに普及しようとしたコーヒーの味わい方のひとつ。
  それがドピオ・・♭♭・・みたいな感じです。

  量ではなく濃さが2倍、味わいが2倍なのがイル・ジョルナーレのドピオだったのかも知れませんね。そんなマニ
  アックさが日本のスタバの「売り」でもあるのでしょう。
  ある意味、常連さんを相手にしている車やバイクのチューニングショップのような雰囲気をかもし出そうとしている
  のかも知れません。

  でも、残念ながら我々が飲んだドピオなエスプレッソは味が今一のような気がしました。
  つまりチューニングが今一。

  エスプレッソやカフェラテ、カプチーノ。
  今では一般的になっているこのイタリア風のコーヒーの飲み方も確かにここ10年、いや15年くらいでどこでもに
  普通に飲めるようになりましたが、昔はどのコーヒーショップでもせいぜいブレンドとアメリカンがほとんどで、時折
  カプチーノとかエスプレッソの名前で深炒りコーヒーがあったくらいですよね。
  クリームの下に隠れたやけどしそうなココアが好きだった私も最近ではエスプレッソを飲むようになりましたし。勤
  務先の自販機ですら豆を挽いたパックを一杯一杯ドリップするかなり美味しいコーヒーが飲めます。フラビアとい
  う製品です。

  コーヒーは文化。わかるような気がします。




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 ■ スタバが目指したもの


  貧しい暮らしの中で、フットボール特待生として大学への切符を手に入れ、ゼロックスの営業マンからビジネスを
  スタートしたハワード・シュルツは、北欧系の雑貨会社で優秀なビジネスマンとしての地位を得ていたようですが、
  コーヒーメーカーの卸先としてのスターバックスに出会ってしまいました。
  彼にとっても新しい文化、素晴らしい味のコーヒーと品質をとことん追求するスタバの経営哲学にほれ込んだよう
  です。

  ところで、今のスタバにそこまでの文化があるのでしょうか。
  前回の投稿で述べたのと同じように、スタバの味は、自宅で淹れる日本メーカーの手ごろな価格のコーヒーに劣
  るような気もするのです。でも、例えば、自宅で作ったラーメンや焼肉の味が専門店の味を上回ることはまずない
  でしょう。

  あっ、私は別にコーヒー党ではありませんよ。 昼食前に濃いコーヒーを飲むと酔ってしまうし、夕方以降にコーヒ
  ーを飲めば寝付けなくなりますから。
  休日の昼食後にコーヒーメーカーで淹れるコーヒーの匂いと味。 そしてアウトドアーにて、その場で荒挽きした豆
  とパーコレーターで淹れる薄くてちょっとまずいかもしれない、でも温かいコーヒーの温もりが自分を癒す気がして
  お気に入りなだけなのです。つまり雰囲気を楽しんでいるのです。

  話しは戻りますが、
  創業者3人を説得して、マーケッティング部長として経営に加わった彼は、どちらかというとマニア向けだったスタ
  バの接客姿勢を一般向けに修正しようとしました。

  彼が目指したのは、コーヒーを淹れるバリスターと呼ばれる技術者がお客と会話しながら素晴らしいエスプレッソ
  を出してくれるような情緒です。
  スタバでそれを目指したのだが、経営陣がコーヒー豆ではなく、イタリア風のエスプレッソコーヒーやカフェラテの
  提供を拡大しようとした考えは経営陣には受け入れられず、結局、新聞と同じ名前のイル・ジョルナーレというコー
  ヒーショップの経営を開始しました。
  とはいえ、スタバの創業者たちと喧嘩別れしたわけではありません、彼らの出資も取り付けたようです。

  しかし巡り巡って、イル・ジョルナーレは、創業者が手放したスターバックスを買い取ったのです。
  ハワード・シュルツは、スターバックスの買収を争ったライバル投資家の極めて傲慢な態度に怒りを覚え、そのよう
  な態度で人に接することは決していけないのだと心にとめ、今日のミッションステートメントに 「お互いに尊敬と威
  厳をもって接し、働きやすい環境をつくる」という一文を入れたのです。

  ハワード・シュルツの情熱と努力が今のスタバを築いた。それは間違いありません。




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■ スタバのパートナー


  イル・ジョルナーレを母体とする新生スタバでは、従業員の健康保険等の福利厚生制度をパートタイム従業員にま
  で拡大するなど、徹底的に従業員を大事にする手法が経営方針として採用されました。何度も紹介していますが、
  ハワード・シュルツやその父親のつらい経験が彼にそうさせたのはもちろんですが、人を大事にして教育や技術習
  得に時間をかけて一人前にした社員の離職を最小限にすれば、品質の維持にもつながるし、採用の為の費用を最
  小限に抑えることも可能だという経営政策なのです。

  とはいえ、株主への配当が必要な株式会社なら、見える部分での費用増大は中々難しいところです。結果として従
  業員のパワーやモチベーションが向上し、会社が伸びていくのか、もしくは、高待遇に満足した従業員が成長を忘れ
  てしまうのか。
  それは全て、経営者が企業の成長に向けた道筋をどう描き、どのように実際の行動につなげるかにかかっているよ
  うな気がします。

  品質を維持することを前提に、店舗網を拡大する路線を明確にして、それを実行する。そんな成長に向けた姿勢が
  あったからこそ、従業員を大事にする経営策がスタバでは生きてきたのです。

  スタバは1991年に、従業員の基本給に連動した自社株購入権(ストックオプション)をビーンストックと名づけて導入
  しました。
  やる気が自分の株価に跳ね返る、単純に考えれば良い制度ですが、大企業でうまくいく例は少ないでしょう。何故な
  ら、自分の行動が自分の会社の業績に直接つながるイメージは持ちにくいからです。

  でも、すでに大企業となっていたスタバはそれを実行し、更なる成長につなげたわけです。
  その日からスタバで働く方々は従業員ではなく、パートナーとなったのです。

  実は、社員持株制度(今は持株会出資制度)は私の勤務先でも実行されています。
  でも企業の継続的成長による株価の向上と配当が維持できなければ、株購入は負担になることはあってもモチベー
  ションに繋がることはありません。

  たった一人のリーダー、企業家の想いと、従業員の想いがうまくからみあった結果が今のスタバなのでしょう。



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■ スタバのコア・コンピタンス
    (スタバのコーヒー豆とライオンコーヒーの違い) 


  スターバックスのコーヒー豆部門を率いるデイブ・オルセンは言いました。
  コーヒーはCDのようなもの。自分専用のリスニングルームでオーボエの音色やエリッククラプトンが弾くギターの爪
  音にも耳を澄ますこともできるし、カーステレオにセットし、窓を全開にして叫ぶこともできる。音楽は同じでも使い方
  は色々。 (スターバックス成功物語より引用)

  この言葉はスターバックスの品質に関する哲学を表しています。
  そう、豆は音楽と同じく、オリジナルを変えてはいけない、でも飲み方はお客様の好みに合わせて色々ある。というこ
  とです。

  実は、ハワイ産コナコーヒーでライオンコーヒーというブランドのコーヒー豆が私のお気に入りなのですが、ライオン
  コーヒーには色々な香りを付けたバリエーションが豊富にあります。
  バニラ、チョコレート、キャラメル、へーゼルナッツ等、ほのかな香りが味覚を刺激します。

  でも、これはスタバが最もNGとすることなのです。豆に匂いが付くと豆の本来の香りがそこなわれる。豆を挽く機器
  に匂いが移るのもスタバの提供する品質の大敵との考えです。

  彼らは、豆本来の持つ美味しさを最大限に引き出すために深炒りし、炒りたて新鮮なままの品質を維持することに
  心血を注いでいるそうです。

  現在行っている、エスプレッソへのシロップでの味付けや、調整乳の使用も、お客様のニーズには全て応えるのだ
  とスタバ社内で提唱したハワード・ビーハー(お客様の満足を測る覆面調査スナップショットを考え出した張本人)の
  意見により、散々の議論の末に使用を決断するまでは断固として行わなかったそうです。

  ではライオンコーヒーは、コナコーヒーの本来の味を台無しにしているのでしょうか?
  もしかしたらその通りなのかも知れません。私はファンなのですが。
  正直なところ、コーヒーの色々な楽しみ方のスタートラインに豆に対するこだわりがどこまで必要なのかは判りませ
  んが、自社のコアコンピタンスであるコーヒー豆を美味しく味わうことへのこだわりがスタバの急成長の原動力となっ
  たのは確かです。




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■ スタバの経営には助言者が必要
    (ハワードシュルツの経営哲学)


  街の小売店が急成長を始めた時に必要なものは何か?
  組織を確固たるものにすること。 もちろんYES。 人事制度(GAPジャパンの中島部長の言葉)。それもYES。

  では、ハワード・シュルツの考えを聞いてみましょう。
  〆〆〆 やりたいことがはっきりしたら、同じことをやった経験者。自分の価値観と熱意に共鳴してくれ、大胆に行動し
        成功した経験が豊かな起業家、実業家を見つけることが必要。彼らは地雷原に埋められた地雷を見つけ出
        す術を心得ている。                                                 〆〆〆

  充実した経営陣を築くことで、スタバは急成長を可能とした。
  財務のエキスパート、情報システムのエキスパート。市場調査・マーケッテングのエキスパート、疑問を問題点として
  明確にする意思の強い人間。

  しかも、ハワード・シュルツはその経営陣に明確に権限委譲した。
  社員(パートナー)が報告する相手は誰なのか、それを明確にするように振舞うことで、彼の頼った経営陣の存在を浮
  き立たせていったようです。

  そもそもイル・ジョルナーレからスタートした新スタバの経営陣はある意味、コーヒー以外に関しては素人。 その成長
  期においては、ハワード・シュルツにしたって恐らくは鼻っ柱が強くハングリーなのが取り柄の若者です。

  起業家として最初の成功は、突飛でニッチなアイデアでも可能かも知れませんが、企業としての本格的な成長には専
  門家が欠かせないのです。つまり大事なのは能力ある方の意見・助言をきちんと聴き、信頼して任せることが出来るこ
  と。 ハワード・シュルツは幸運なのではなく、それが出来た。私はそう考えます。




Chapt16                              

 
■ スタバで重要な形の無いもの 

  株式会社の経営に必要で目に見えるものを何か一つを上げろと言われれば、株主を納得させる数字という答えが思
  い浮かびます。もちろん、上場企業で無くたって、出資者へ説得力ある数字を示すことは経営を継続させるためには
  絶対に必要です。

  では、企業経営に必要で形の無いものは何か? ・・・・ハワード・シュルツは、情熱と価値観を上げています。
  情熱や価値観は数字には置き換えられないし、当然、株主や出資者を説得する力としては弱々しい存在です。
  でも、経営者だけでなく、企業の構成員全員が日増しに高まる情熱とゆらぎない同じ価値観を共有していれば、企業
  の成長における原動力となることを彼は証明しました。

  この文章をお読みの皆さん。皆さんがお勤めの会社、学ぶ学校には情熱や共通の価値観が蔓延していますか?

  あなた自身が情熱とぶれない価値感を維持して日々生きていたとして、残念ながらあなたのチームの仲間達やあな
  たの上司・部下・同僚は、同じ価値観や熱き思いを大事にして生きているとは限らないでしょう。

  かつて、日本でバブル経済が弾ける前の時期(80年代後半以前、くしくも新スタバがスタートした頃)に、社会貢献と
  いう言葉が企業の間で大流行したことがあります。一流企業はこぞって、社内の社会貢献を調べなおしたり、新たな
  社会貢献を始めたりしました。社会貢献が企業のステータス、消費者へのアピールとして注目されたのです。

  社員に対する勤務外での社会貢献実績調査があり、私も町内会の清掃に参加していると報告したほどです。

  でも、不動産の高騰を主体として日本中に広がったバブル経済が崩壊するとともに、社会貢献を謳う企業はいなくな
  りました。ここ数年やっと社会貢献を前面に出す企業が戻ってきた状態です。

  片や、スタバは1992年のNASDAQ上場後も、それ以前と変わらぬ情熱や価値観を維持しています。もちろん、
  5年後スターバックスという企業がこの世に存在するという保証はありませんが、形無きものへの賛同者 (出資者)
  を集めた企業としての魅力に学ぶべきところが多いと私は信じております。

  ハワード・シュルツは言っています。
  上場企業を経営するのはジェットコースターを経営するようなもの。株価の上下がアナリストの毒舌の対象となった
  り羨望の的にまったりする。でも、株価が高い時も、低い時も、それぞれの店舗は同じように営業し、コーヒーを求め
  るお客様が並んでいる。と。




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■ スタバと音楽の関係

  「スターバックス研究14 スタバのコアコンピタンス」 にて 「コーヒーはCDのようなもの」というデイブ・オルセン
  (スタバのコーヒー豆担当) の言葉を引用しましたが、1995年3月より、スターバックスではジャズのオリジナル
  CDの店頭販売をはじめました。

  1枚目は、その名もブルーノートブレンド。
  キャピタルレコード社のブルーノートレーベルより選局したジャズの名曲が詰まっていたそうです。合わせて、スム
  ーズ・アンド・スピリティッド(すっきり、さわやか)というブルーノートをイメージしたブレンドも売り出しました。
  CDは7万5千枚を完売。コーヒーの売上も向上したようです。

  今では色々な場所で音楽CDを販売していますが、当時 (といってもたった10年前)、コーヒーショップでCDを売
  るなんて奇抜なアイデアは他には無かったようです。

  こんなアイデアもジャズ好きな1社員のアイデアです。
  誰かのアイデアに対して「NO」がスタートラインの企業って結構ありますよね。
  でも、スタバでは「YES」がスタートライン。

  もちろんコーヒー豆の品質のように譲れない一線=基軸はあるものの、アイデアを聞いた社内の方々が、
   「あっ、それいけるかも。」 からスタートし、試行錯誤しながらも実現してしまう凄さがあります。

  それを実現するためには、起業家精神が社内に、いつでも、新鮮に根付いていなければなりません。
  故P.ドラッガーがよく使用した起業家精神という言葉を引用して、「起業家精神を持ちなさい」 と言うだけでは、
  誰もそんな精神は持てないでしょう。

  いいアイデアはそれ自体が光っています。
  そのアイデアが実現されれば、社員のやる気は、何倍にも膨れ上がるでしょう。業績だって向上します。
  1社員が自分で考えたアイデアを会社の戦略にまで引っ張り上げる仕組みを維持することが、企業としての起業
  家精神なのです。 スタバを見習いましょう。




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■ スタバのチルドは両面表示

  値段は高いが、その分美味しい。ちょっと贅沢な味。
  賞味期限は短いが、新鮮さが売り。
  そんなキャッチフレーズをストアーやTVCMで見たことはありませんか。

  このように短所を明確にして長所を際立たせる心理テクニックを「両面表示」と呼びます。
  アメリカでの研究で、知的に高く、独立心の強い人ほど両面表示を好むという統計があるらしいです。

  何も商品に限ったことではなく、
  「苦労をかけるかもしれないが、幸せにするよ。」 とプロポーズの言葉に使われるこの言い回しも両面表示であ
  ることは分かりますよね。

  考えようによっては、世の中は駆け引きだらけなのです。

  ところで、チルドコーヒー「スターバックス ディスカバリーズ」 をサントリーが首都圏のコンビニで販売し、かなり
  好調に売れているのをご存知ですか?

  面白いのはその値段設定と賞味期限。
  ライバルのM社のチルドコーヒーは240mlで140円弱。
  スタバ同様のコーヒーチェーンを展開するT社の製品は200mlで160円弱。
  スタバのディスカバリーズは200mlで210円。

  賞味期限については、ライバル製品に60日のものが多い中で、スタバのディスカバリーズは2週間に設定して
  いるようです。

  スタバというブランド効果も相まって、値段が高く、賞味期限も短いけどその分美味しいのではないかというイメ
  ージが湧いてきます。非常にわかりやすい両面表示です。

  実は製造は高梨乳業でのライセンス生産なので、別にスタバの工場で作っている分けではありませんが、ライ
  バル製品を圧倒する売れ行きを示しているようです。
  また。コンビニでの販売開始以降、店舗の売上も向上しているようです。

  日本は世界に例の無い自販機缶コーヒー市場を持っていますが、その購入者の8割近くは男性らしいです。
   (自販機なのになんで分かるのか不思議。)
  チルドコーヒーでは女性客の購入も大きなターゲットであり、新しい市場の開拓となりつつあるようです。

  まあ、味は、自分で飲み比べていただくとして、両面表示の効果ははっきり出てますね。





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